【判例紹介】財産の分与に関する処分の審判において、一方当事者の名義である建物を、同建物を占有している他方当事者に「分与しない」ものと判断された場合にも、建物の明渡を命じることができるとした事例(最決令和2年8月6日)

事案の概要

  • Xが元妻Yに対し、離婚後に、財産分与の審判を申し立てた事案
  • 財産分与対象財産としては、X名義の本件建物を含む財産が存在したが、Yが本件建物を占有していた
  • そこで、Xは、財産分与の審判において本件建物の明渡を求めた

裁判所の判断

第一審(横浜家審平成31年3月28日民事判例集74巻5号1534頁)

本件不動産は申立人名義の財産であり、本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、申立人に分与するのが相当であるものの、相手方が居住していることから、相手方は申立人に対し、財産分与として、本件建物を明渡すのが相当である。ただし、相手方がただちに明渡すのは困難であると推認されるので、本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、本審判確定の日から3か月以内に本件建物を明渡すのが相当と認められる。

第二審(東京高決令和1年6月28日民事判例集74巻5号1545頁)

本件不動産は相手方名義の財産であり、本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、これを相手方に分与するのが相当である。
なお、本件建物には抗告人が居住していて、相手方は、抗告人に対し、本件建物の明け渡しを求めるところ、上記のとおり、本件不動産は相手方の名義で、相手方に分与される財産であること、その場合、自己の所有建物について、占有者に対して明渡しを求める請求は民事訴訟ですべきものであって、これを家事審判手続で行うことはできないといわざるを得ない。

最決令和2年8月6日

  財産分与の審判において、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定めることとされている(民法768条3項)。もっとも、財産分与の審判がこれらの事項を定めるものにとどまるとすると、当事者は、財産分与の審判の内容に沿った権利関係を実現するため、審判後に改めて給付を求める訴えを提起する等の手続をとらなければならないこととなる。そこで、家事事件手続法154条2項4号は、このような迂遠な手続を避け、財産分与の審判を実効的なものとする趣旨から、家庭裁判所は、財産分与の審判において、当事者に対し、上記権利関係を実現するために必要な給付を命ずることができることとしたものと解される。そして、同号は、財産分与の審判の内容と当該審判において命ずることができる給付との関係について特段の限定をしていないところ、家庭裁判所は、財産分与の審判において、当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の財産につき、他方当事者に分与する場合はもとより、分与しないものと判断した場合であっても、その判断に沿った権利関係を実現するため、必要な給付を命ずることができると解することが上記の趣旨にかなうというべきである。
  そうすると、家庭裁判所は、財産分与の審判において、当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の不動産であって他方当事者が占有するものにつき、当該他方当事者に分与しないものと判断した場合、その判断に沿った権利関係を実現するため必要と認めるときは、家事事件手続法154条2項4号に基づき、当該他方当事者に対し、当該一方当事者にこれを明け渡すよう命ずることができると解するのが相当である。

離婚訴訟の附帯処分としての財産分与の裁判においても認められるか?

男性弁護士
男性弁護士

本件建物の明渡は、離婚後に申し立てられた、財産分与の審判に伴って認められたものです。
それでは、離婚訴訟に伴って申し立てられる財産分与の分与に関する処分においても、同様の給付命令を行うことが可能なのでしょうか?
この点については、以下のような見解があります。

本決定に係る給付命令の制度は,財産分与の審判に伴って認められているものであるが,離婚訴訟の附帯処分としての財産分与の裁判においても,人訴法32条2項に同様の規定がある。
本決定は,これらの人事訴訟法上の給付命令について直接述べるものではないが,給付命令の趣旨は同じであると考えられる以上,異なる解釈がされるべき理由はないものと思われる

判例解説 判例タイムズ1480号136頁

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