破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権については免責されないことについて(破産法第253条第1項第6号)

破産法第253条第1項第6号の趣旨

破産法
(免責許可の決定の効力等)

第二百五十三条 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)

相談者
相談者

どうしてこのような規定があるのでしょうか?

男性弁護士
男性弁護士

債権者名簿に記載のない債権者に対しては、意見申述期間の通知(破産法253条2項)がなされませんので、そのような債権者は免責についての意見申述の機会を奪われてしまいます。そのような趣旨で、この規定が設けられています。

「知りながら」とは

記載しなかったことにつき、過失がある場合

相談者
相談者

「知りながら」記載しなかった場合ということですが、過失で記載しなかった場合はどうなりますか?

男性弁護士
男性弁護士

破産者が過失により債権者名簿に記載しなかった場合に免責を認めていない裁判例がありますので、気をつけなければならないです。

東京地判平成14年2月27日
「破産免責制度は、不誠実でない破産者の更生を目的として定められたものであることを併せて考慮すれば、破産者が、債権の存在を知って債権者名簿に記載しなかった場合のみならず、記載しなかったことが過失に基づく場合にも免責されないと解すべきである。」

東京地判平成11年8月25日
「単に債権者名の記載を怠った場合であっても破産法366条の12第5号本文に該当するものというべきである。」

記載しなかったことにつき、過失がない場合

相談者
相談者

記載しなかったことについて、過失がない場合はどうでしょうか?

男性弁護士
男性弁護士

過失がない場合には、免責されるとしている裁判例があります。

東京地判平成15年6月24日
「債権者名簿に記載されなかった債権について、債権の成立については了知していた破産者が、債権者名簿作成時に債権の存在を認識しながらこれに記載しなかった場合には免責されないことは当然であるが、債権者名簿作成時には債権の存在を失念したことにより記載しなかった場合、それについて過失の認められるときには免責されない一方、それについて過失の認められないときには免責されると解するのが相当である。」

神戸地判平成元年9月7日

「債権者名簿」とは

免責許可の申立てをするには、債権者名簿を提出しなければならない(破産法248条第3項)

破産法
(免責許可の申立て)
第二百四十八条
 免責許可の申立てをするには、最高裁判所規則で定める事項を記載した債権者名簿を提出しなければならない。ただし、当該申立てと同時に債権者名簿を提出することができないときは、当該申立ての後遅滞なくこれを提出すれば足りる。

みなし申立の場合には、破産法第20条第2項の債権者一覧表が債権者名簿とみなされる

破産法
(破産手続開始の申立ての方式)

第二十条 破産手続開始の申立ては、最高裁判所規則で定める事項を記載した書面でしなければならない。
 債権者以外の者が破産手続開始の申立てをするときは、最高裁判所規則で定める事項を記載した債権者一覧表を裁判所に提出しなければならない。ただし、当該申立てと同時に債権者一覧表を提出することができないときは、当該申立ての後遅滞なくこれを提出すれば足りる。

(免責許可の申立て)
第二百四十八条
 債務者が破産手続開始の申立てをした場合には、当該申立てと同時に免責許可の申立てをしたものとみなす。ただし、当該債務者が破産手続開始の申立ての際に反対の意思を表示しているときは、この限りでない。
 前項本文の規定により免責許可の申立てをしたものとみなされたときは、第二十条第二項の債権者一覧表を第三項本文の債権者名簿とみなす。

男性弁護士
男性弁護士

破産手続開始申立書を提出する際に、通常は、債権者一覧表を一緒に提出しますが、破産法248条4項によって免責許可の申立てをしたものとみなされたとき(みなし申立の場合)には、この債権者一覧表が破産法248条3項本文の債権者名簿とみなされることになります(248条5項)。
先ほど見たように、知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権については免責されません。
ですので、破産手続開始申立書と一緒に提出する債権者一覧表には、知っている債権者を漏らすことなく記載する必要があるのです。

みなし申立てとは

個人債務者が自己破産申立てを行うのは、通常、免責許可決定を得て経済的再生を図るためです。そこで、破産法は、個人である債務者が破産手続開始の申立てをしたときは、反対の意思を表示しない限り、同時に免責許可の申立てをしたものとみなすこととしています(破産法248条4項)。

破産法
(免責許可の申立て)
第二百四十八条  個人である債務者(破産手続開始の決定後にあっては、破産者。第四項を除き、以下この節において同じ。)は、破産手続開始の申立てがあった日から破産手続開始の決定が確定した日以後一月を経過する日までの間に、破産裁判所に対し、免責許可の申立てをすることができる。
 前項の債務者(以下この節において「債務者」という。)は、その責めに帰することができない事由により同項に規定する期間内に免責許可の申立てをすることができなかった場合には、その事由が消滅した後一月以内に限り、当該申立てをすることができる。

 債務者が破産手続開始の申立てをした場合には、当該申立てと同時に免責許可の申立てをしたものとみなす。ただし、当該債務者が破産手続開始の申立ての際に反対の意思を表示しているときは、この限りでない。
 前項本文の規定により免責許可の申立てをしたものとみなされたときは、第二十条第二項の債権者一覧表を第三項本文の債権者名簿とみなす。

男性弁護士
男性弁護士

個人債務者の破産手続開始申立の際に、「破産手続開始申立書」しか提出していないのに、いつの間にか免責許可の申立てをしたことになっているのは、この規定があるためです。

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