【裁判例紹介】老犬ホームの終身預かり契約が解除された場合に既払いの対価を返還しない旨の非返金条項が消費者契約法9条及び10条に反しないかが争われた事例(大阪地判平成25年7月3日)

 老犬ホームの契約に限らず、契約を解除された場合に既に支払った対価を返還しない旨の非返金条項を見かけることがあります。
 以下では、老犬ホーム契約の開始後、間もなく、預けた犬が体調を崩し、早々に飼主が契約を解除して犬を連れて帰り自ら飼育したという事案において、裁判所が示した判断をご紹介しています。

事案の概要

 Xは、ペットホテル及び老犬ホーム事業を営むYのペットホテルに、平成24年1月18日から同年2月7日まで自己の犬Aを預けた。
 同年2月7日、XはYとの間でAの終身預かり契約を締結し、AをYに引き続き預け続けることとした。
 XはYに対し、その対価として、先行したペットホテル契約の代金を控除した76万5800円を支払った。
 ところが、同年2月末頃から、Aは体調を崩し、病院で検査及び治療を受けたが症状は好転せず、同年3月9日にXがAを自宅に連れて帰り、以後は、自宅でAを飼育した。
 Xは代理人を通じて、同年3月16日付けで、Yに対し本件代金に相当する額である76万5800円の支払いを求める内容証明郵便を送付した。
 Aは、同年4月17日、X宅で死亡した。
 本件終身預かり契約を申し込む際、Aは非返金条項についての説明を受けていた。

裁判所の判断

男性弁護士
男性弁護士

以下では、この事例についての裁判所の判断の一部を簡略化して記載しています。詳細をお知りになりたい方は、消費者法ニュース97号348頁等をご参照ください。

本件代金の内容・性質等について

  • 諸事情を踏まえると、本件代金はAの世話というサービスの提供の対価
  • 本件代金が契約上の地位の取得の対価であるというYの主張は採用できない
  • 本件終身預かり契約は、Aの世話を行うという事務の処理を内容とするから準委任契約の性質を有している
  • 委任者であるXは、いつでも本件終身預かり契約を解除することができ、本契約は平成24年3月9日に解除された
  • 本件代金は、既に世話を受けて履行された分を除き、不当利得となり、YはXに対し返還義務を負う
男性弁護士
男性弁護士

この事案における終身預かり契約は、準委任契約であると認定されました。
そのうえで、契約解除後は、既に履行された分を除いて、法律上、既払い金を返還すべきと認定しています。

なお、Yは既払金の返還義務がない理由として「契約上の地位の取得の対価である」と主張していたようです。これは、「契約上の地位の取得の対価」でるならば、すでにその地位を得ている以上、返還は不要である旨を主張していた可能性があります。

老人ホームの入居契約については、このような主張が認められている事案もあり、別の記事で紹介しています。

非返金条項が消費者契約法9条に反し、無効となるか否かについて

  • 本件終身預かり契約は、個人であるXと事業者であるYとの間における契約であるから消費者契約に該当する
  • 本件非返金条項は、本件終身預かり契約解除に件う損害賠償額の予定又は違約金の定めに当たる
  • 諸事情を考慮すると、本件代金76万5800円のうち、Aを含めた中型犬の基準である84万円(消費税を含む)の半額である42万円を超える部分、すなわち34万5800円については、平均的損害の額を超えるものと認められ、この範囲で本件非返金条項は無効である

消費者契約法
第九条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分

男性弁護士
男性弁護士

法律上、既払い金を返還すべきであるところ、返還をしない旨を定めた非返金条項の有効性が争われました。

この事案では、非返還条項のうち、平均的損害の額を超える部分は無効であると判断されています。

非返金条項が消費者契約法10条に反する否かについて

  • 消費者契約法9条1号によって無効とならない部分が、同法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に該当しないことは明らかであり、かつ「民法、商法その他の法律の公の秋序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」には該当せず、同条適用の要件をも欠く
  • 本件非返金条項が消費者契約法10条に反するとはいえない

消費者契約法
第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

男性弁護士
男性弁護士

非返金条項のうち、平均的損害を超えず無効とならない部分については、消費者契約法第10条にも反しないと判断されています。

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