元請事業者が下請事業者に対して建設工事の全部又は一部を請け負わせる場合の書面交付義務について。建設工事に該当しない役務提供の委託の場合はどうか。

元請事業者が下請事業者に対して建設工事の全部又は一部を請け負わせる場合の書面交付義務について

A社総務担当者
A社総務担当者

 私は建設業を営んでいる下請事業者A社の総務担当者をしています。
 先日、元請業者B社から建設工事の発注があったのですが、注文書などの書面を交付してくれません。書面の交付に関する法律上のルールはないのでしょうか?

田中弁護士
田中弁護士

 民法によれば請負契約は両当事者の口頭による合意だけでも効力を生じます。しかし、それでは、合意の内容が不明確になり、後日の紛争の原因にもなってしまいます。

 そこで、建設業法は、建設工事の請負契約の当事者は、契約の締結に際して法律が定める事項を書面に記載し、署名又は押印して相互に交付しなければならないというルールを設けています。

建設業法が定める書面交付義務の内容

建設業法
第十九条 
 建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
 工事内容
 請負代金の額
 工事着手の時期及び工事完成の時期
 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容
 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
 価格等(物価統制令(昭和二十一年勅令第百十八号)第二条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
十一 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
十二 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
十三 工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
十四 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
十五 契約に関する紛争の解決方法
十六 その他国土交通省令で定める事項

田中弁護士
田中弁護士

 この条文に記載された「建設工事の請負契約の当事者」とは、発注者と請負人のみならず、下請契約の当事者、すなわち元請人と下請負人も当然含みます。

作成すべき「書面」の形式

A社総務担当者
A社総務担当者

 「書面」と書かれていますが、どのような書面を作成しなければならないのでしょうか?

田中弁護士
田中弁護士

 請負契約書を作成するのであれば、建設業法第19条第1項各号に掲げる事項を記載して、当事者が署名又は記名押印をしたうえ、これを相互に交付する必要があります。相互に交付するというのは、各当事者が同じものをそれぞれ一部ずつつ持つということです。
 ただし、当事者間で署名又は記名押印した基本契約書を締結して、相互に交付したうえで、具体の取引については注文書及び請書の交換によることも認められます。この場合には、以下のルールに従う必要があります。

① 基本契約書には、個別の注文書及び請書に記載される事項を除き、法第19条
第1項各号に掲げる事項を記載し、当事者の署名又は記名押印をして相互に交付
すること。
② 注文書及び請書には、法第19条第1項第1号から第3号までに掲げる事項その他
必要な事項を記載すること。
③ 注文書及び請書には、それぞれ注文書及び請書に記載されている事項以外の
事項については基本契約書の定めによるべきことが明記されていること。
④ 注文書には注文者が、請書には請負者がそれぞれ署名又は記名押印するこ
と。

平成1 2 年6 月2 9 日建設省経建発第132号から引用
田中弁護士
田中弁護士

 また、基本契約書を締結せず、注文書及び請書の交換のみによることも可能ですが、この場合には、以下のルールに従う必要があります。

① 注文書及び請書のそれぞれに、同内容の基本契約約款を添付又は印刷するこ
と。
② 基本契約約款には、注文書及び請書の個別的記載事項を除き、法第19条第1
項各号に掲げる事項を記載すること。
③ 注文書又は請書と基本契約約款が複数枚に及ぶ場合には、割印を押すこと。
④ 注文書及び請書の個別的記載欄には、法第19条第1項第1号から第3号までに
掲げる事項その他必要な事項を記載すること。
⑤ 注文書及び請書の個別的記載欄には、それぞれの個別的記載欄に記載されて
いる事項以外の事項については基本契約約款の定めによるべきことが明記さ
れていること。
⑥ 注文書には注文者が、請書には請負者がそれぞれ署名又は記名押印するこ
と。

平成1 2 年6 月2 9 日建設省経建発第132号から引用

元請事業者が下請事業者に対して建設工事に該当しない役務提供の委託をした場合はどうか。

 A社総務担当者
A社総務担当者

先日、元請業者C社から建設工事ではない役務提供の委託を受けたのですが、 やはり注文書などの書面を交付してくれません。書面の交付に関する法律上のルールはないのでしょうか?

田中弁護士
田中弁護士

 建設工事でないのであれば、建設業法第19条第1項の書面交付義務の適用はありません。

 しかし、一定の要件を満たすのであれば、下請法第3条による書面交付義務が発生する可能性はあります。

下請法第3条の書面交付義務

下請法
第三条
 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。

田中弁護士
田中弁護士

 下請法にも建設業法第19条第1項と似たような書面交付義務の規定があります。ただし、この下請法の規定が適用されるには、下請法の適用対象となる取引及び当事者であることが必要です。

下請法の適用対象となる取引

田中弁護士
田中弁護士

 下請法が適用される取引は下請法第2条に定められた「製造委託」「情報成果物作成委託」「修理委託」または「役務提供委託」のいずれかです。

 「委託」とは、事業者が、他の事業者に対し、給付に係る仕様、内容等を指定して物品等の製造(加工を含む。)若しくは修理、情報成果物の作成又は役務の提供を依頼することをいいます。したがって、例えば、汎用品の購入は「委託」に該当しません。
 そのほかにも、委託業務が発注者の特定の事業を構成するものであること、発注者の特定の事業は「行として」行うものであることなどの要件を満たすことも必要です。

 どのような取引が下請法の適用対象となるかについては、公正取引委員会のホームページに掲載されているパンフレット「知って守って下請法」がとても分かりやすく解説してくれていますよ。

 公正取引委員会のホームページ(外部サイトへのリンク)

下請法の適用対象となる当事者

田中弁護士
田中弁護士

 下請法第3条第1項には「親事業者」が「下請事業者」に対して製造委託等をしたときに、書面を交付しなければならないとされています。

 下請法では、取引を委託する事業者の資本金受注する事業者の資本金によって「親事業者」「下請事業者」が定義されています。
 資本金がいくらであれば「親事業者」「下請事業者」になるかについても、公正取引委員会のホームページに掲載されているパンフレット「知って守って下請法」でとてもわかりやすく解説してくれています。

  公正取引委員会のホームページ(外部サイトへのリンク)

 例えば、資本金1000万円の会社が資本金500万円の会社に役務提供を委託しても、下請法の適用はありません。

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