そもそも、なぜ担保を立てる必要があるのか
保全命令の担保は、違法・不当な保全処分の執行によって債務者が被る損害を担保するためのものです。
債権者が担保を取り戻すための手続
保全命令を得るために担保を立てた債権者(債権者に代わって担保を立てた第三者を含む)が、担保を取り戻すためには、原則として、裁判所に担保の取消しの決定をしてもらう必要があります。
担保の取消しが認められる場合
- 担保を立てた者が担保の事由が消滅したことを証明したとき(民事保全法4条2項、民事訴訟法79条1項)
- 担保を立てた者が担保の取消しについて担保権利者の同意を得たことを証明したとき(民事保全法4条2項、民事訴訟法79条2項)
- 訴訟の完結後、裁判所が、担保を立てた者の申立てにより、担保権利者に対し、一定の期間内にその権利を行使すべき旨を催告し、担保権利者がその行使をしないとき(民事保全法4条2項、民事訴訟法79条3項)
担保を立てた者が担保の事由が消滅したことを証明したとき
典型例
- 債権者が本案訴訟で全部勝訴しその判決が確定した場合
- 債務者が本案訴訟で請求を認諾した場合
- 債権者が本案訴訟で勝訴的和解をした場合
- 債務者からする損害賠償請求(担保の被担保債権)訴訟の敗訴判決が確定した場合
江原健志=品川英基編著『民事保全の実務(第4版)』38頁(きんざい、2015)
男性弁護士
債権者が本案訴訟で勝った場合などは、この方法で担保の取消しを決定してもらうことができます。
担保を立てた者が担保の取消しについて担保権利者の同意を得たことを証明したとき
男性弁護士
担保権利者(債務者)が担保取消に同意するということは、担保権利者がその担保に対する権利を放棄する意思表示をしたものと考えられます。
したがって、担保権利者の同意がある場合には取消が認められます。
訴訟の完結後、裁判所が、担保を立てた者の申立てにより、担保権利者に対し、一定の期間内にその権利を行使すべき旨を催告し、担保権利者がその行使をしないとき
訴訟の完結後に、債務者に損害賠償請求権が発生しているにもかかわらず、その権利行使をしないまま放置している場合にまで、債務者を保護する必要はありません。
そこで、法は、訴訟の完結後、裁判所が、担保を立てた者の申立てにより、担保権利者に対し、一定の期間内にその権利を行使すべき旨を催告し、担保権利者がその行使をしないときは、担保の取消しについて担保権利者の同意があったものとみなす(民事保全法4条2項、民事訴訟法79条3項)として、債権者を保護しています。
「訴訟の完結」の具体的場合
本案訴訟が提起されている場合
- 本案訴訟で債権者が全部又は一部敗訴した判決が確定した場合
- 請求の放棄又は訴えの取下げがある場合
- 債権者の敗訴的和解が成立し、かつ、保全命令の申立てが取り下げられ保全執行が解放されたとき
男性弁護士
債権者が本案訴訟で負けた場合でも、この方法で担保の取消しを決定してもらえる可能性があります。
本案訴訟が提起されていない場合
- 債権者が保全命令の申立てを取下げて、保全執行が解放されたとき
江原健志=品川英基編著『民事保全の実務(第4版)』42頁(きんざい、2015)