相続放棄について

こんな相談が舞い込みました。

ある日、奈々子さん(仮名)が事務所を訪れて、こんな話をしました。

奈々子
奈々子

私のおばさんが先日亡くなったって、親戚から聞いたんです…。

おばさんは、私の亡くなった母の妹に当たる人で、結婚歴が無く子供もいないそうなんです。
私の祖父母も既に他界しているので、私は、そのおばさんの相続人に当たるようなんです。
でも、私は、おばさんとは長い間疎遠だったので、おばさんの近況はよく知らないんです。

もし、おばさんに借金があったらどうしようかとても不安です。
それでも、私は、おばさんを相続しないといけないんでしょうか?

男性弁護士
男性弁護士

おばさんを相続しない方法として、相続放棄がありますね。

奈々子
奈々子

相続放棄ですか…?

相続放棄とは

民法896条
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

民法第939条
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

男性弁護士
男性弁護士

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継してしまいます。

奈々子さんの場合、被相続人のおばさんの財産、たとえば預貯金や借金があれば、預貯金だけでなく借金も承継することになってしまいますね。

奈々子
奈々子

やっぱり…。
でも、相続放棄をすれば、おばさんを相続しなくて済むんですよね?

男性弁護士
男性弁護士

そうです。
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます。
奈々子さんの場合、奈々子さんがおばさんの相続に関して相続放棄をすると、初めからおばさんの相続人とならなかったものとみなされます。
そのため、奈々子さんは、仮におばさんに借金があっても、こうした借金を相続することはありません。

 奈々子
奈々子

相続しなくて済むのは、借金だけなんですか?

男性弁護士
男性弁護士

いいえ。
ご注意頂きたいのですが、もし、奈々子さんのおばさんが預貯金や不動産などの財産を有していた場合には、これらの預貯金や不動産などの財産も奈々子さんは相続しないと言うことになります。借金だけ相続しなくて済むわけではないんですね。

どういった方が相続放棄を検討されていますか?

男性弁護士
男性弁護士

被相続人が預貯金などの財産をお持ちでなかった一方で、多額の借金を抱えた状態でお亡くなりになったようなケースが典型と言えますね。
例えば、被相続人の方の預貯金はゼロで、借金が数千万円あったというような場合ですと、相続人の方は、これを相続することで数千万円の借金を負うことになってしまいます。

 奈々子
奈々子

ほかにもありますか?

男性弁護士
男性弁護士

はい。
相続人の方が、被相続人の方との関係が疎遠で長期間交流がなく、被相続人の方の財産状況が不明のため、相続したくないというケースもよく見られます。
奈々子さんのケースもこのケースに当たりますね。

また、被相続人は生前無借金で預貯金などの潤沢な財産があり、相続人の方もこれらの預貯金を相続することが見込まれるケースでも、相続放棄を検討する方がいらっしゃいますね。

相続放棄ってどうやってするんですか?

民法第915条第1項 
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

民法第938条  
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

男性弁護士
男性弁護士

相続放棄をする旨を家庭裁判所に申述しなければなりません。具体的には、家庭裁判所に申述書を必要書類等とともに提出し、家庭裁判所が申述の受理の審判をすることによって相続放棄の効力が生じます(家事事件手続法39条・207条1項・別表第1の95の項)。

 奈々子
奈々子

相続放棄はいつでもすることができるんですか?

男性弁護士
男性弁護士

いいえ。

いつでも出来るわけではありません。
自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をする必要があります。

 奈々子
奈々子

そうなんですね?!
それじゃあ、私もおばさんの相続人になったことを知ったときから3ヶ月以内に相続放棄の申述する必要がありますね。

男性弁護士
男性弁護士

原則的には、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内ということですが、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって家庭裁判所で伸長することはできます。
なので、相続放棄の申述をしたいけど、家庭裁判所への申述の準備が間に合わないなどと言った事情がある場合は、伸長を検討してもいいかも知れませんね。

  • 相続実務研究会編『Q&A限定承認・相続放棄の実務と書式』230頁(平成30年 民事法研究会)
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